国家的なプロパガンダは、教育を受けた階級に支持され、そこから逸脱することが許されない空気感を醸成できた場合に、多大な影響力を持つ

コロナはもはや医学的な問題というよりも政治社会心理的な問題の側面の方が強くなっていると感じるが、NY大学メディア学ミラー教授の「コロナは史上最大のプロパガンダだ」という主張は気になった。プロパガンダというのは「特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為・情報戦・世論戦」と定義されるようだが、今ひとつ掴み所がなく、 @gaaaal6 さんお薦めのチョムスキー先生の本を読んでみることにした。チョムスキー先生の名前は知っているが、恥ずかしながら著作を読むのは初めてだ。


@gaaaal6 さんお薦めの本はKindle版がなかったため、それと近そうで、かつ、短くまとまっている↓の本にしてみた。邦訳はおそらく右の新書。

オーディオブックと合わせて購入し、KindleのImmersion Reading機能で読んだのだが、ちょっと嬉しい想定外があった。なんとナレーションがチョムスキー先生の肉声というか、チョムスキー先生の講義を録音したものだったのだ。本も音声講義をテキスト化したもので、チョムスキー先生の講義を受けられた気分である。

薄い本だが、現代プロパガンダについての濃い内容がてんこ盛りで目が話せない。以下、簡単にメモ。まずは現代プロパガンダの初期の歴史の内容に驚いた。えっ、こんなにあからさまにプロパガンダって展開されてきたの??

現代政府による最初のプロパガンダ作戦は、1917年の第28代米国大統領ウィルソン政権時に第1次世界大戦への参戦に世論誘導するために実施  

  • 欧州での第1次世界対戦に関して、米国民は厭戦で平和主義で参戦する理由がないと考えており、ウィルソン大統領は当初は中立の立場であった。 
  • しかし、ウィルソン政権は「戦争を終わらせるための戦争」として参戦を決断した。そこで、米国民の世論を変えるために、1917年、ジョージ・クリールを長とする最初の現代的なプロパガンダ機関であるCPI(Committee on Public Information、クリール委員会)を設立。 
  • クリール委員会のプロパガンダ作戦は6ヶ月も経たずに成功し、平和主義だった米国民を、ドイツが関係するものすべてを破壊し、ドイツ人の肉体を引き裂き、戦争をして世界を救おうとする、ヒステリックで戦争好きな国民に変えた。 
第1次世界大戦時のクリール委員会のプロパガンダの成功から、政界・ビジネス界をクライアントとして1920年代の米国でPR業界が勃興

  • 戦争中も第1次世界大戦後も、同じ手法でヒステリックなRed Scare(赤狩り)を行い、労働組合を破壊し、報道の自由や政治思想の自由といった危険な問題を排除することに成功した。メディア界や財界からの強力な支援があり、実際に組織化され、この仕事の多くを推し進め、全般的に大きな成功を収めた。 
  •  「PR業界の父」と呼ばれたエドワード・バーネイズ(精神科医フロイトの甥)は、クリール委員会のメンバーであり、そこで学んだノウハウを「世論の誘導工学」として発展させ、それを「民主主義に必要不可欠なもの」と表現した。
  •  米国はパブリック・リレーションズ(PR)業界の先駆者となり、PR業界は大きく発展した。この業界は、1920年代を通じてビジネス界が求めるルールに一般大衆をほぼ完全に従属させることに成功したのである。 
誰も反対せず皆が賛成するスローガンを立ち上げ、ある勢力・意見をそのスローガンを害するものと位置づけ、世論によってその勢力・意見を封じ込めるプロパガンダ手法が1930年代に開発された

  • 1930年代の世界恐慌で労働者が立ち上がり、1935年に労働者が組織をつくることの権利を認めるワグナー法が立法された。ワグナー法の立法を、労働者にとっての最後の立法上の勝利とすべく、ビジネス界は画策した。
  • ビジネス界に雇われたPR業界が新しいPR手法を編み出した。1937年にペンシルベニア州西部で鉄鋼業界の大規模ストライキが行われた時にその新しい手法が試された。チンピラ部隊を送り込んだり組合の内部崩壊を仕掛けたりする方法はもう効かなくなっていた。巧妙で効果的なプロパガンダ手法を使った。世間に対して、ストライキを行う労働者は公共に対して破壊的で有害であり、公共の利益を損なう存在という世論誘導を行ったのであった。この方法が非常に効果的で、ストライキ崩しに成功し、その後の定番方法となった。
  • この方法は「ストライキ崩しの科学的方法」と呼ばれた。アメリカ愛国心のような誰も反対しない概念を破壊するものとストライキを位置づけることで、地域社会の世論・一般市民が労働者ストライキを憎むように誘導したのだ。アメリカ愛国心に反対する人はいない。調和でもよい。調和に反対する人はいない。湾岸戦争の時の「我々の軍隊をサポートしましょう」も同じだ。それに反対する人はいないだ。あるいは「黄色いリボン」。これに反対する人はいない。
  • こうして誰も反対しない空虚な概念・スローガンを立ち上げるのが、プロパガンダの新手法となった。誰も反対せず皆が賛成するスローガンを立ち上げることで、一般市民が本来の争点を考えなくなるようにし、潰したい勢力・意見をそのスローガンに反対するものと位置づけることで、一般市民・世論がその勢力・意見を潰すように仕向けたのだ。
米国の代表的な政治学者でありコミュニケーション学の創始者であるハロルド・ラズウェル氏の言葉に、個人の自由を尊重する自分は身震いがする

" 個々人が個々人の利益を最もよく判断できるという民主主義のドグマに屈してはならない。なぜなら『彼ら』はそうではないからだ。『我々』が公共の利益を判断する最高の審判者である。『彼ら』が誤った判断に基づいて行動する機会がないようにしなければいけない。全体主義国家や警察国家ではそれは簡単だ。こん棒を用意しておいて、『彼ら』が暴れたらこん棒で頭を殴打すればよい。しかし、社会が民主的で自由になるとそれができなくなる。なので、プロパガンダなのだ。すなわち、民主主義にとってのプロパガンダは、全体主義にとってのこん棒に相当する。それは賢明であり、善いことだ。迷える『彼ら』は公共の利益を理解できないからだ "

峰宗太郎氏の↓のツイートを思い出させる。 

レーニンによると、プロパガンダとは「教育を受けた人に教義を吹き込むこと」であり、扇動とは「教育を受けていない人の不平不満を利用すること」らしい。今回のコロナパニックで興味深いのが他のことでは冷静で合理的な判断をする人、教育を受けた人にもパニックに飲み込まれている人が多い点である。まさに本書の↓の文で書かれた状態である。

" 国家的なプロパガンダは、教育を受けた階級に支持され、そこから逸脱することが許されない空気感を醸成できた場合に、多大な影響力を持つ。ヒトラー他がこれを学び、今日でも追求されている "


本書の後半は、レバノン、パレスチナ、アフガニスタン、イラク、ニカラグア、グアテマラ、「テロとの戦争」等、米国のダブルスタンダード=偽善の話である。この辺の話は、自分にはやはり「遠い国」の話で、具体的な内容はあまり頭に入ってこなかった。

しかし、本書の最後の締めの言葉が重い。

" 問題はもっと広範囲にわたる。自由な社会に住みたいのか、それとも自ら課した一種の全体主義のような社会で住みたいのかということだ。その一種の全体主義では、迷える群衆は力を削ぎ落とされ、別の場所に疎外され、恐怖を感じ、愛国的なスローガンを叫び、生活・命の危険を感じ、破滅から救ってくれた指導者を畏敬の念を持って賞賛し、教育を受けた大衆は命令されるままに雁行し、繰り返すべきスローガンを繰り返し、社会は国内で悪化していく。そういう選択肢なのだ。それがあなたが直面しなければならない選択なのだ。これらの質問に対する答えは、あなたや私のような人々の手にかかっている "


コロナ問題は徹底的に考えたから、世間の多数派とは独立に自分の意見を持てた(その代償として、変人や陰謀論者として扱われることが増えたかもしれない)。コロナ問題ほど考えない他の社会問題については、自分もまわりの教育を受けた層の多数派意見と合わせることが多いと思う。自分は自分の考えがまわりと「合った」と思っていたが、「合わせていた」という可能性が高そうな気がしてきている。結果としてプロパガンダの影響を受けている可能性が高く思える。しかし、社会問題の1つ1つを徹底的に調べて考えるような時間もインセンティブも1市民にはない。民主主義がプロパガンダに弱いのは必然で、一種の全体主義として行き過ぎた時に大衆が反動することでしか修正されないのかもしれない。

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